サイトロン SIGHTRON SV 842 ED
サイズ 横・厚・縦 145x55x181 mm とAKプリズム採用により長く、横幅がある
重量 968g
最短1.8m メーカー公表、実測1.5-1.6m
見かけ視界 旧基準64° 、実視界8°
当ブログで購入直後のファーストインプッレッション、人工星による焦点内外像については既に書きました
その後、SV 42 EDについて直接・間接に集まった巷の声としては以下です
・予約後に納期未定と回答があり入手できなかった(2021年夏)
・欧州御三家のようなブランドネームがないこともあり10万円未満でないと販売的に難しいのでは?(販売店)
・鳥屋さんには4cmで1kg近い重さは敬遠される(販売店)
・SDアポクロマート望遠鏡の像を思い起こさせる明るくすっきりした像を結ぶ双眼鏡
・実際に持つと大柄なボディで購入をためらう
・エラストマー外装の耐久性に不安がある
・AKプリズムを採用している利点がよくわからない
なかなか厳しい声もありますが、実機を自然風景の中で見られた方々からはその見え味について概ね好評でした
サイトロン ジャパンが公開しているSV 42 ED 双眼鏡の内部構成図をみてみます
実際には鏡胴部構造も含め簡略化されているので、実際とは少し違うかもしれません
例えば対物レンズは2群2枚に見えますがおそらく1群張り合わせのEDレンズを含む2群3枚かと思われます
その後、インナーフォーカスレンズ1枚とアッベ・ケーニッヒ (AK)プリズムを通り、Zeiss Victory SFやFLに似たスマイスレンズ1枚を含む 4群6枚(画像は5枚?)のハイアイポイント広視界アイピースを採用しています
収差補正的にはクラシックな面もありつつも良好で、とても見やすいという特徴があります
外装・構造・加工の精緻さ
ガラス瓶のコークを左右に配したような独自の形状に、シングルブリッジを中央に配してつないでいます
シングルブリッジで問題になりがちなヒンジの緩みや不安定さは特に感じません。視軸も自分が使用する開度では問題ありませんでした
エラストマー外装はつなぎ目がわずかに空いて見えたり、高級機のような品質には少し及びませんが、素材自体の臭気や、ホコリがつきやすいようなベタつきもなくさらりとした感触です 外装樹脂の耐久性を購入に際して気にされる声を聞きますが、個人的にはケミカルリッチで臭気がする外装よりも人の肌に触れるものですので、安心安全な材料で劣化したら定期的に交換するほうが良いと考えます
鏡胴左右のざらついたパームレスト形状が絶妙で、素手に絶妙にひっかかりホールディング性が良いです また、指先だけで左右から鏡胴を保持する「ぶれやすいつまみ持ち」にならないよう、両脇を締めて手のひらの手根部近くで「蕎麦屋の出前持ち」という正しいホールドをすることで、むっちりとした大柄なボディの重量バランスが実は計算された快適さであることがわかります
作り全体に何か既視感があり、KOWA Genesis 44や Zeiss Conquest HD 56の折衷といった感じです
これは表から見える内部の金属加工や金枠や遮光壁、銘板やラバー部もろもろからくる感覚的なもので、それ以上の推測も根拠も何もありません
内部で特筆すべきは対物レンズ以降、フォーカスユニットやプリズムに至る各所に遮光と反射防止壁・環を多用していることです
AKプリズム特有の内面反射の目立ちにくさとあいまって、結果実視でもベストのグレア耐性を達成しています
一方、この個体だけの問題ですが、遮光壁の一部にオイルのわずかな飛び散りとプリズムの拭き汚れが見られました
いずれも実性能には、ほぼ影響がなく、ZeissやLeica ドイツ品にも稀にみられる事象ではありますが個人的には少し気になりました
日中の自然観察
同じAKプリズム機の最新版Swarovski SLC 8x56 WBと比較しました
SLC 56はEL SwarovisionやNL Pure程のマイクロコントラストを強調した機種ではありませんが、像のコントラストと透明感、豊かな色彩再現に定評がある機種で、AKの良さを遺憾無く発揮できています 当初SV842EDが幾分軽い描写に思えるほど、強いコントラスト描写でSVを圧倒するかと思われましたが・・・
いつもの森林内での逆光はグレアではSVが圧倒的に少なくほぼ全勝でした
SLCも同クラスの50-56mm機では内面反射・グレア耐性は高い方ですがSVはその上を行っています
カワウの観察 vs SLC8x56
海鵜か川鵜か識別知識がなく、なぜここにいらっしゃるのか不明(海岸から3km以上) でした
この場所は都内でありながら、カワセミ、ルリビタキなど時期により稀に出会えます しかし、鵜は初めてです
東京湾岸から内陸にたまたまきたのでしょうか?
はじめに、解像感的にはどちらも優劣はなく十分すぎる描写です
透明感も含めた素通し感・いわゆるライブ感はわずかにSLCが上ですが、これは無理に比較した場合の話でSVでも十分すぎるほど楽しめます
画像はiphone SEで撮影し見た目に近くするためトーンカーブを微調整しています
SLCはコントラストのメリハリがあり、SVは羽のボトムの黒い締りはそのままに中間調が持ち上がって明るく見えます
不思議なことに、SVの明るさはよくありがちな内面反射や視野全体に被るベーリンググレアが原因でコントラストが低く、または全体が明るくなる現象とは全く原理が違うようです
当初からSVはAKプリズムによる透過率の良さから「視野が明るい」という印象を持っていましたが、どうも違うようです
こちらが人工星の焦点像をNL Pure 10x42と比較した画像です
焦点内外像でも言及したSVの青成分のハロがここでも明らかです
青の光束収束を散らしたセミアポクロマート的な収差処理とMTFでいう高周波数未満がストンと落ちるような現象が、像の中間調の明るさと感じるのではないかと現在のところ勝手に考えています
SVの視野色調が僅かに赤黄色に偏っていることは当初から認識していましたが、観察する対象や光線・輝度でその印象が一定しないことを不思議に思っていました カラーバランスという言葉で一括りにしたくないのですが、当然硝材の吸収やコーティングが支配的だとは思いますがそれだけではないと思っています
天体用途として
夏の天の川が見えるコンディション下でWX 10x50IFと手持ち比較をしました
SV842EDは、星の色や煌めき・透明感もしっかり描出しつつ背景のコントラストをしっかりと黒く締めているのでより星々が引き立ちます
点像は厳しく見ると中心から半径40%程度までで、そこからの崩れはとてもマイルドです 結果フラットナー入り他機種レベルには及びませんが像面湾曲や非点収差、コマは少ないので私は十分許容できました
WXを持ち出すとSVの出番は無いかとも思いましたが、機体の軽さとホールディング性の高さ、自由に手持ちで振り回せる時間の長さ、そして僅かにWXよりも色味の偏りが少ないクリアさ、1-2等星が堅く結んだ中心像質を保ちつつも彩り程度に少し散った感じがWXとも違い味わいがある、以上の点で結局交互に使っていました
歪曲収差は僅かなピンクッションだと思いますが、私個人は余程の酷い糸巻きや陣傘、はたまた太っ腹な樽型歪曲収差で回転球現象(RB,GB)が盛大にでないかぎりは双眼鏡の歪曲収差自体にあまり興味がありません このブログのレビューでもあまり直線歪曲補正やビルを見てどうこう書いていない理由がそれです
特に見かけ視界50数度を超える広視界接眼鏡では角倍率補正優先(視野内のどこでも像の大きさが等しい、直線は糸巻きに見える)なのか、直線補正優先(直線は縦横まっすぐ。周辺ほど像が小さくなる。回転球現象が知覚されやすい)なのかで天体用途と地上用途の歪曲補正に別れます。(両方の同時補正は不可能とされています)
その点を理解されていないレビューがあまりに多すぎるため、そこから一歩距離をとっています
まとめとしまして
現在、20万円以内の欧州御三家と言われる双眼鏡で携帯性や軽さを顧みず、AKプリズムを採用し、高い光学的性能と高級双眼鏡でのみ味わえる独自の世界を実現できている4cm機というのはほぼ皆無です
そういった意味でSVは貴重だと思います
個人的には本機はZeiss Conquest HDのAK 56mm ダウンサイジング版 T*コートなしでは? と密かに思ってます
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