ジャングルさんの双眼鏡・単眼鏡レビュー Binoculars and Monocular Review

素晴らしい銘機から普通機まで、双眼鏡・単眼鏡についてその覚書

手に届く大口径高倍率 Nikon 18x70IF

ひととおりの試用後、この70mm双眼鏡について「老舗ニコンによる中型双眼鏡の逸品」というフレーズが一番に思いつきましたが、それは必ずしも光学性能や実際の使用における使い勝手を含めての印象を表してる訳では無く、寧ろその二つの点においては「過去逸品だった」と言わざるを得ない部分があります。

具体的にまとめに入ってしまいますが、近年新しくリリースされている中華製ED仕様の70mm双眼鏡(賞月観星・APM)と比較し、アポクロマート補正やプリズム側面の内面処理対策、手持ち使用のためのエルゴノミクスや重量バランスに遅れをとっている事を否めません。それでも天体用途においては十分適性があり、部品一つ一つの作りの良さ・クラフトマンシップを感じるモノとしての良さを楽しめる機種だと思います。  

 

それでもEDアポクロマート補正のアップデートは直ぐにでも行って欲しい気がします。

 

簡易比較表

  Nikon 18x70 IF APM ED Apo 16x70 賞月観星ED KING 16x70
倍率 18 16 16
実視界 4.0 4.1 4.1
見かけ視界(旧) 72 65.6 65.6
最短合焦距離(m) 81 10 16
重量(g) 2050 2124 2140

 

 

日中屋外での使用

中心と中心から半径40-50%までがいわゆる良像範囲です。8x30 EIIに似た傾向の見え味ですが、像のコントラストはわずかにソフトなイメージです。

通常、大口径かつ中高倍率機では低倍率の高性能機で体感できるコントラスが高く像のエッジが明瞭な見え方を期待すると大抵のケースでは裏切られるものですが、本機の中心の解像感と像質は高く唸らされます。ただし晴天下の輝度の高い景色においては、仔細に観察すると常にごく淡い青のフレアらしきものが視野全体に淡く薄くかぶり、ピントを結んだ白いビルをはじめ、像自体が少し黄色味を帯びる所謂アクロマート画質である事に気が付きます。

倍率色収差は相当に強く青・黄がフリンジとして周辺にかけて見られます。また、周辺像の崩れには像面湾曲も影響しています。歪曲収差は直線歪曲は良好に補正されていますが、何故か上下のパンニングの際にEL SWARIVISIONの初期にあったような樽型の軽いローリングボール(回転球)現象を感じました。

 

業務用然としたポロプリズム機外観の印象のとおりダイナミックな見え味で、視差による強い像の浮き上がり効果で強い立体感を楽しめます。視軸や回転の調整が精密に行われているからか、廉価機によくありがちな「強い立体感を感じるが調整不足による左右の合致が安定しない等の違和感や再現性の不安定さ」ということが全く起きません。見え味は極めて安定しています。

 

夜間星空の観察

厳しく見なければ中心から半径60%程度まで良像 周辺はコマ収差、像面湾曲、非点収差が合わさって星像が典型的なカモメが羽ばたくマークになってしまいます。

日中と夜間の観察において、普通は夜間の星像の方が瞳孔径の絞り効果が低くなる事により像質の印象が悪くなる方向にいくはずなのですが、18x70IFは夜間の方が印象が良くなります。

この点は焦点内外像で明らかになりますが、青色成分の飛ばし方が今まで見た双眼鏡の中でも潔よく遠くに飛ばしています。

シリウスなど輝度の高い白色の恒星は中心でもハロ状に色がごく淡く出ているのが見え、良質なアクロマートのシャープな像と同じ見え方として好感がもてます。

 

M42 プレアデス プレセペ

倍率と口径により見応えがあります。このあたりは5cm以下の口径や低倍率では例えどのような高級機でも決して到達できない差があります。

月面は月のエッジに色は見えてしまいますが、高いコントラストと非常にしっとりとした質感、そしてクレーターの細部まで描ききる解像力があり見応えがあります。

WX10x50との比較では、主に倍率の高さ故の違った良さがあり、なんとか手持ち使用にも耐える限界ではあると思います。ただし、WXと違い18x70は手持ちで鏡胴を支えるポイントが筒先側を持つようにしないと長く安定して持てない欠点があり、更に重量的にはWXよりも軽いのにも関わらずバランスと形状の悪さから体感的にWX以上の重さと腕の疲労を感じやすいです。 本機は天体使用において三脚固定が観察においてベストであるのは間違いありませんが、直視タイプは仰角の違いでアイピースの高さが変わってしまう不自由さがあり、手持ちで自在に操る自由が双眼鏡の一番の利点であると信じる筆者にとっては三脚固定の呪縛に躊躇してしまいます。

 

18x70IFとWX 人工星焦点像比較(LED 6500K光源)

 

Nikon 18x70IF 焦点内像

 

Nikon 18x70IF 焦点外像

まとめとして、冒頭に書いた内容そのままとなります。

天文用途の手持ち可能な機種内ではコストパフォーマンスの高いおすすめ機種ではありますが、追撃の手を緩めない昨今の中国製機種に対して、ED化やWXに近い広視界化という進化も見せて欲しいと言うのが正直な感想です。

 

本機種は一般フォロワー様よりお借りし、試用による記事となります

機材提供をいただいたルミビノさん@lumi_binoに感謝いたします!