ジャングルさんの双眼鏡・単眼鏡レビュー Binoculars and Monocular Review

素晴らしい銘機から普通機まで、双眼鏡・単眼鏡についてその覚書

番外編 JAXA 筑波宇宙センターへ行ってきました

H2ロケットの勇姿

今回は双眼鏡類とは全く離れ、JAXA 筑波宇宙センターを訪問したお話です。

この場内自体は不定期・年末年始を除いて誰でも指定された範囲内で見学が可能な施設です。参加したガイド付き見学ツアーも諸条件を満たし料金を払えば「筑波宇宙センター紹介ビデオ」「きぼう運用管制室」「宇宙飛行士養成エリア」の3つを場内バスツアーとして見学できます。

接続がボルト締めなのが妙にプラント配管っぽい

 

「筑波宇宙センター紹介ビデオ」

場内の概要や宇宙開発への関わりを動画で知る事ができます。東京ドーム6個分の敷地に2千人近い職員や外部関係者が勤務しているとのことで、行きがけに筑波近辺のご出身または勤務されていた方からのお話として、つくば周辺の小中学校は親御さんがこういった科学研究に携わる方が多いため、お子さんへの教育的影響が強いと。特に夏休みの宿題など気合の入り方が「ガチ」だと(笑)。これは容易に想像つきます。結局親も口出しをしてハードルを上げてしまうアレです。

 

 

「きぼう運用管制室」

この建物内では撮影禁止のためカメラ、スマホ、スマートウォッチを含め撮影機能のあるデバイスは入口の管理トレーに全て預けてからの入室となります。

24時間シフト交代で地上よりISSのきぼうユニットの監視・指示・実行・サポートを行っています。他国と協調している関係で宇宙飛行士の通常勤務8時間(活動時間)に相当する時間帯が日本時間で夜中に相当するため、地上管制が忙しい時間は夜になるそうです。職員の方の机の傍に某エナジードリンクがあったのが端的に物語っていました。 モニターが多数配置された席を見つつもWindows OSの?PC的なモノはわずかに見られただけで、その他は汎用端末ではななさそうな機器ばかりに見えました。個人的にはいわゆる使用されている通信バスやプロトコールは?インターネットに接続しているのだろうか?SCADA的なもので配置されているのだろうか?等々興味をもちましたが、ガイドさんに聞くような事は控えました。(フライト制御にも使用されるミリタリー規格が使われていると後日ネット上に情報がありました)

 

「宇宙飛行士養成エリア」

無重量環境試験棟・宇宙飛行士養成棟にあります。

お出迎えは船外活動スーツいわゆる宇宙服です。スーツ内を水冷チューブで循環冷却し温度を快適に保つ工夫だそうです。スーツの前面にダイヤルがあり右手首に装着された小さな鏡にうつしながら操作でき、鏡にうつす事を前提に文字が反転されているとのこと。フェースカバーは強力な太陽光の赤外線・紫外線を防ぐ金色のカバーと通常のカバーとスライド分離して使用できるそうです。この金色のカバーは後で調べると本当にAuの様で550-2000nm以上の反射率が高い金の特性を利用しています。VernonscopeのGold star diagonalの事がふとよぎりました。天体望遠鏡マニアの性ですね。

その後、人工衛星や輸送船ユニットの外装保護に使用されているサーマルブランケットも金色ですがまさか同じく金が使用されているのかしら?とう話をしていたのですが・・している訳もなく、こちらは黄色いポリイミド樹脂にアルミ・銀の蒸着がされたものとのことでした。

最大8時間の作業 おむつ要るよね?

最終選考に必要な閉鎖環境適応性をみる設備

自分的には無理ですこの空間で過ごすのは



今回、とある団体イベントの一環として組まれた見学ツアーでしたが、その後にJAXA職員・研究者の方によるISS「きぼう」ユニットに関する説明や課題、意見交換会などが組まれた非常に有意義な時間でした。その中で公知になっている情報やちょっとした差し支えない小話を最後にご紹介します。

 

「きぼう」にはさまざまな実験を行える機器・設備があり地上400kmの宇宙空間特有の環境を活用できます。

1) 10-6乗から10-4乗Gの微小重力 (地上は1G  無重力と安易に言わないところがサイエンティストの矜持を感じます)

2) 宇宙放射線環境

3) 10-5乗Paの高真空環境

 

「きぼう」を利用する実験系を組む上で地上の常識や普通が通用しない、また思い及ばなかった制約が多数存在することに驚いたというのが感想でした。

1番の制約はコスト。何をするのにもコストがつきまとうことです。

2023年10月現在の「きぼう」利用費用一部抜粋です(Webサイトより)

 

  • ※2 軌道上リソースの使用料は以下のとおりです。
    • 打上費:330万円/kg
    • 回収費:550万円/kg
    • 宇宙飛行士作業料:550万円/時間
    • 軌道上保管料:25.6万円/年/リットル
    • 保管時の冷凍・冷蔵機能付加料:393万円/4か月/リットル
    • 通信料:6,200円/Mbps/時間

 

なかなか痺れる料金体系です。特に作業料金が550万円/1hrというのがまず効いてきます。

1日8時間/週休2日の基本勤務原則がある宇宙飛行士ですが、5分刻みのスケジュールが設定されているそうです。その彼らに実験のセッティングや作業、地上からの遠隔操作実験においてもサポートをお願いするため、トラブルによる時間の消費が直接金銭的ロスに直結します。そのため、実験手順や作業手順を明確にしておくことはもちろん、なるべく簡単に誰でもできる内容にする、できれば宇宙飛行士が作業をしなくて済む系を組む。これらが重要だそうです。

なぜなら作業を行う飛行士を実験系に応じて地上から人選することができない(当たり前ですが)、必ずしも作業を行う飛行士がその作業や実験のスペシャリストではないからだそうです。ですから実験系を自動化したユニットを飛行士にセットしてもらい、地上から遠隔操作で起動させるという系が理想のようです。

また、作業を簡易化・簡略化するための専用治具や工具を開発する場合もあったりもします。

次に打ち上げ費とそれに要るする準備や手間です。打ち上げを他国にお願いしている為、例えばサンプル調製が必要な生物系・細胞培養系の実験では打ち上げタイミングに合わせて場合によっては他国にまで出向いて調製が必要であること。水など液体物は重量物なのでできるだけ打ち上げたくない。また、実験後のサンプル成果物を持ち帰る必要がある場合その保存輸送方法や宇宙でどこまで処理しておくかなど。

また、実験系自体に地上の常識とは違う点、例えば対流がないため熱の伝導が違う、微小重力下で液体に気泡が発生したらけっこう致命的、開放系の実験系は組めない、使用する化学物質に打ち上げや接続するユニットの他国と確認交渉が必要である事などなど。

 

いろいろハードルは確かにありますが、人類が宇宙環境に進出適応する未来のため、地上では再現できないデータを取得し科学技術の発展に貢献する目的においてISSと「きぼう」はとても価値のある設備だと総じて思いました。

ドームエリア

マジックテープじゃないと文具が漂う

そうそう、「きぼう」には共焦点レーザーユニットが装着されたライカの顕微鏡があります。生物医学系でも強烈なライカ・ツァイスマニアが存在し、私もとある先生からライカ顕微鏡の良さを延々お話をうかがった事があります。ライカ、ニコン、ツァイス、オリンパス(名前変わっちゃいますが)の戦いは宇宙にも及んでいたのですね。

職員食堂でのランチ 星型コロッケはさつまいも