ELもSWAROVISIONも経て、やはりこの旧SLCにまた帰ってきてしまう至極の品。
超まとめ
・年代、リファブリッシュのタイミングでコーティング等の違いが顕著
それによるカラーバランス、透過率の違いが大きい
・プリズムの曇った中古個体にかなりの確率であたる
・950gとずっしり重く、200g以上の外装アーマーが原因
・Zeiss Dialyt 7x42, Leica Trinovd 7x42と並び、古き良き時代の名機の一つとしてコレクション推奨 (1000ドル以上支払って、これら旧機種を今購入する価値があるか?判断はお任せ)
・突出した性能は無いが、星・自然観察に常に安定した見え味
私がSWAROVSKI 双眼鏡を知ったのは、2000年以前、未だ都内に中古望遠鏡ショップが複数存在していた時代。 曇り有りの5000円ジャンクポロ機 7x50 SL Marine を入手したこと。
分解したら、光学系がことごとくシリコーン樹脂に埋没された激しい構造で、結局元に戻せなくなったほろ苦い思い出。
その後スカイウォッチャー誌(星ナビの前誌)にて、SLCの特集があり「星がカラフルに瞬いて見える」という記述に想像力の限界を試され(その当時はニコンをはじめとしたポロ機の解像力至上思考であった)、実際に閉店前の店頭で1-2等星を覗かせてもらっても「何か星像が太いな」程度で良さが理解できなかった。 ただ、街灯下の街角を流した時、行き交う人々が暗がりから浮かび上がる情景にはとても驚いた記憶がある。
SLCの系譜と主に外観の違いは以下。
1985-
8x30 7x30をはじめとし,外装にブラックと黄土調のコンビネーションラバー+ツノ付きアイカップで防水型 Mark 1(MK1) その後ややこしいのだが、Mark 2として ブラック+グレー、ブラック+ブラックの 3色展開になった。次のMk2とは違う。
1991-
グリーンまたはブラックの単色ラバー外装に統一され形状が変更された Mark 2(MK2) アイカップはフラットトップまたはツノ付きに取り替え可能。
1995-
MK2の外装ラバー意匠にわずかなデザイン変更(おもて面のラバー段差のカーブが鋭角になった) Mark 3(MK3)
2004-
外装をグリーン+ブラックのコンビネーションに一新した SLC New (SLC Neu)
2010- HD レンズを搭載した SLC HD
2013- マイナーチェンジを施した SLC HD WB
2021 AKプリズムのSLC HD 56を残し42mmを廃盤
光学設計的に大きく変更されたのは、やはりHDガラスを採用した2010年モデル以降であろう。今回の話題は1990年後半から2000年前半のコーティングやミラー反射を細かくアップグレードしていった時期のSLCについてである。
スワロマニアの方ならご存知のとおり、シリアル番号の最初のアルファベットには
L EL
D SLC
G CL Pocket
K CL Companion
N SLC HD
などの機種シリーズの意味があり、続く最初の2桁数字にに30を足すと西暦表記の製造年となる。
このルールは1991 年から2020年9月製造間で、Kで始まるここ数年のSwarovision ELやCL Brightも確認している。
そして、2020年秋以降の最新ナンバリングは10桁となり、Bird Forumによると
例 KD10xxxxxA
頭の2桁が製品ライン、製品種 続く2桁数字に2010を足すと西暦、5桁の製造番号に最後が製造国(工場) と推測されている。
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スワロフスキーほど、光学的改良や仕様変更を公式・非公式に頻繁に行う双眼鏡メーカーはないと思う。
SLCシリーズに関してはSwarobright(スワロブライト)とという、1999年中頃に発表された、シュミットペシャンプリズムのコート改良+ミラー増反射技術にて、見え方が大きく変わった。
2002年製造品よりBOXおよび保証書に明記がされるようになったとの情報があり、所有する当該機も表記がされている。以前所有していたD71にはなかった。
だからといってこれから中古機を探す場合、この表記だけを目安に探すのが絶対の正解ともいえない。
古いSLCシリーズを7x30 8x30 7x42 7x50を機種によっては複数台購入してきた経験があるが新品、中古含めこのシリーズの一番の弱点は「プリズム・内部の曇り」が高頻度高確度で起きやすいことである。 海外オークションではMintとあっても大抵見逃されやすく、では新品ならどうかとLEDライトを持参して販売店でチェックすると長期在庫品は結構な確率でプリズム周辺に曇りがあったりする。
これと関連する事象と後々で気がつくのだが、SLC New(Neu)となる最後のグリーンアーマー色のSLCモデル以前の中古には、外装ラバーに強い芳香剤のような臭気がするものが多い。
はじめ、海外の前ユーザーの保管が芳香剤と一緒にしていたか? 程度に考えていたが、複数同じ事象にあたるとその考えが間違っていることに気がつく。
また、ラバーの劣化やロット差かと思ったこともあったが、臭うラバーを拭くと表面から臭いは取れるが、本体中心から再びなぜか臭ってくる。
今現時点での推察は、ピントリング内のフォーカス伝達機構に使用されているグリースのロット差で非常に揮発性と臭気がある物が使われていた。それが一定期間をおいて蒸発しラバーに再付着した。その蒸発物が鏡筒内部に及ぶことが光学系の曇りにつながっている。という仮説だ。
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2011年にDr. Gijs van Ginkel 氏がBinocular History Societyでレクチャーした光学ワークショップの資料がpdfとしてネット上に公開されている。その中でSLC 8x30の2ndモデルからNeuに至る、各透過率測定データが興味深い。
MK2 SwaroBright(SB)なし
MK3 SBあり
New(Neu) SB+改善したコーティング
この順に透過率が徐々に改善し、特に450-550nmにかけて10-14%近くNewに至る過程で高くなっている。
これは、各モデルでのカラーバランスがかなり違っていることも示している。
経験的にもMK2やMK3のSBなしモデルあたりは暖色系に偏っており、夕景はレッドエンハンサーを薄くかけた様なドラマチックさを演出する。SBありやNewに至ると視野全体の明るさを感じつつ、現在のSwarovisionに通じる青っぽさ、寒色系にだいぶ傾いてくる。(実際にはSwarovisionほどフラットではなく黄緑が残る)
このあたりは好みの見え方に対応するモデルを、実際にのぞいて確かめるしか方法はない。
ここからが、中古品を選ぶ際に難しいところ。
外箱のSB表記や、本体外観や製造番号からSB有無やコーティング世代を推察することは可能であるが、前述したSLCのクモリやすい性質から、修理にだされているケースがあり、その際にはプリズムを含む鏡胴ユニットを丸ごとその時点の在庫部品か、再生産部品に交換される事実がある。
このころのSLCは画像の様にヒンジを含む中心軸は金属ダイキャス製で、左右の光学ユニットは樹脂製で覆われジョイントは接着式なのである。 本国工場に修理に送ると、かなりの確率でプリズムクモリはすでに組み立て済みのユニットに付け替えられる。
使われた部品がSBありなしかどうか、修理された時期で判断するか、または実視で判断するしかない。近年の修理経験では、もしかしたらプリズムコーティングを再設計した、NEU当時よりも透過が改善?しているのでないかと思われる。
光学性能として最新になれば良いではないかと思う考えもあるが、2ndや3rdのSBなしで感動した油彩画の様な夕景は、SBありやNEUで見ると「普通」になってしまう。 必ずしも透過率改善が良いことか考えさせられる。
SLC 7x42 Bの見え方についてまとめると
色味や透過率が製造年代と、メンテナンスを受けた個体でバラバラである。と言える。
共通するのは、視野周辺まで非常に安定した像質であること。特に星空を流した時に、星々の粒立ちや輝きが他種双眼鏡には見られない特徴的な描写をする。明るい輝星が、散っていると言うと誤解があるが、鋭利な点像で無く*マークのように見える。粗悪な双眼鏡にある結像が甘いというわけではなく、中心はあくまで硬く結んでいるのに散って自己主張している様にみえる。