ジャングルさんの双眼鏡・単眼鏡レビュー Binoculars and Monocular Review

素晴らしい銘機から普通機まで、双眼鏡・単眼鏡についてその覚書

Leica Trinovid HD 8x32 古風なアクロマート画質でも味わい深い

3cm機は口径と明るさおよび重量のバランスが良く、20-25mm機の暗さや物足りなさと42mm機の携行性の若干の悪さを補う絶妙なポジションにあると思う。しかし、これ1台という決定打が個人的には中々見つからない。

古くはZeiss Dialyt 8x30 , Trinovid BA BN 8x32, Swarovski SLC 8x30 , 7x30
新しいものではConquest HD , CL Bright , モナークHG, Swarovision 8x32 など
このLeica Trinovid HD 8x32 はそれらの中において明確な弱点もあるが、個人的には絶妙に良いポジションにきている一台。 今回はまとめに入らず、購入経緯からお付き合いください。

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FrankfurtのLeica Shopで試用させてもらった際、店員氏がわざわざ店外での試用を勧めてくれた。
屋外晴天下での一見は8x42HDの記憶を呼び戻すように、一瞬でわかるような感動が少なく、ビル街を見回してもなんとなく白っぽい。
それどころかフォカースを前後した際の色収差フリンジ、輝度の高い白いビルエッジの倍率色収差によるフリンジが顕著ですぐにそちらに気をとられる。この機種の大きな欠点の一つである。中心付近の解像感は高く、フォーカスが合った部分の色収差は無い。
ここまでで買わないかなと思っていたところ、店員氏が「ぜひ近くを見て」と。何と最短1mという仕様を後で知ったのだが、相当に近くまで寄れる。金属の手すりや手元の植物が、本当に艶やかに描写される。最短付近だと左右の周辺同士で両眼視を構成する形になってしまうが周辺像が比較的良好なのでちゃんと像形成ができている。結局買ってしまった。

持ち帰って色々観察してみると、この機種は内面反射コントロールにもよく考えられた構造を取り入れていることがわかった。

 

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見かけ視界は広視野タイプでは無いが(旧基準で53度程度)周辺像は際周辺を覗き比較的良好で周辺にかけてなだらかに崩れる。湾曲も軽微。

個人的には見かけ視界旧基準で51-2度を越えるあたりが狭さを感じにくくなる分水嶺かと思っている。これを下回ると急激に圧迫感・閉塞を感じる。

歪曲はおなじみの糸巻き。点光源に対して周辺でフォーカスを前後させると非点収差が明確にわかる。
アイカップは回転引き出し式で、クリックストップ付き。してなんと4段階(収納時を除く)に高さを調節できる。ラバーの手触りや質感は良好である。重さはマグネシウムダイキャスト製ボディにも関わらず630gとちょっと重めである。

内面反射対策に関しては、興味深い設計がされている。当初、ショップで戸外を見た時にはクレセントグレアが薄く広範囲に被ることがあり、これは何かしら?と思ったのだが、安易にアイカップを全部引き出し、さらにラフに目をアイカップから離し気味に見るとこの状態になりやすいことが分かった。
しかし、アイカップ高さを調節し、接眼レンズと眼のポジションを合わせると、グレアはほとんど出ない。

鏡筒内部を観察すると、内部のインナーフォーカスレンズユニットが、通常は対物レンズ筒先に近い部分に配されることが多いが、この機種はプリズム側に大きくシフトしている。そして対物側の筒先スペース内には固定の遮光環がきっちり2枚設置され対物レンズや押さえ環もしっかり反射防止塗装がされている。
プリズム側面もほぼ漆黒に塗られ、滅多なことでは光らないように注意深く設計・処理されている。
そして、フォーカスレンズユニット部は光が斜めに入ると光ってはしまうのだが、光った部分が接眼レンズから遠く離れたボジションで観察しないと眼に入らないように設計されてるのではないかと想像される。

結果として、コントラストの高い良像を条件によらずコンスタントに描出する。

WXやNL Pureを見た直後にTrinovid HDを見ると、その視界の狭さと色収差に暫し唖然とする。某販売店の某氏に「取り扱ってみては?」と渡したところ「これは、これは。20年前の双眼鏡かと思った・・と絶句されていた。

しかし、中心の像のキレ味や、フィールドに持ち出した際の生物や植物のリアル感、ライブ感の描出は捨てがたいものがある。もっと注目されて欲しいと願うシリーズである。

 

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ここで、3機種のミニレビューをもってTrinovid HDと比べてみたい。

Swarovski CL Bright 8x30

最短距離が3mと長いこと、専用ストラップしか使えないこと、ゴムラバーが硬く薄いのでクッション性が少々低い。この3大弱点さえなければ、デザイン、携行性、見え方の満足度から 3cm級の超お勧め機種であることは間違いない。 Trinovid HD 8x32との比較ではCL Brightの方が肉眼に近いカラーバランスで、CLやELが色温度の高い昼白色蛍光灯という表現であればTrinovidはリビング向けの白色から温白色という感じ。 現代的で溌剌とした見え、見かけ視界の広さ、相対的な色フリンジの少なさからCL Brightが常識的な選択ではあると思う。

Nikon Monarch HG 8x30

視野の着色が黄鶯色に少しかたより、極小のベーリンググレアのせいなのか、硝材のせいなのか、ニコン双眼鏡にいつも感じる「粉っぽさ」「艶やかさで僅かに劣る」はこの機種でも健在。しかしHG 42mm機よりは改善しているように感じた。倍率収差を含む色消し性能には優れ、CL Bright , Trinovid HDを超える。クレセントグレアは出てしまうが、全体のフレアコントロールは良いほう。また接眼レンズの設計が良いので覗きやすい。
中心解像は良好ではあるが、Trinovid HDに少々譲り、EL Swarovisionには遠く及ばない。日本ではCLやTrinovid HDに比べ割安なので、ボディの質感とも合わせて全体で評価すると、かなりお買い得のような気もする。

Swarovision EL 8x32

Trinovid HDを含め、上記2機種とも見比べると、中心像の驚異的な解像力と鮮烈な映像、視野の広さ、良像範囲の広さ、これら全てで他機種を圧倒している。
しかし、クレセントグレアをはじめとする内面反射対策に一番劣っており、グレアが軽微なEL 8x42 SVを所有している自分からすると「なんでこんなに違うの?」と落胆してしまう。忠実な色再現は、紅葉など暖色系の描写において演色性が低い分、楽しめないと言う贅沢な悩みもある。

   

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