梅雨のあいだ星も鳥も見る機会がめっきり減りましたので、人工星でも眺めてみましょうかというのが発端です。
嘘です。
海外の双眼鏡や望遠鏡に関するサイトでは、その機材について数値化した評価がされているケースを多く見かけます。あくまで主観的な体験を直接共有する方法が眼視では不可能なため、その光学性能や描写の特徴を定量化し数値による表現をすることは公平であるようにも見えます。
一定の手法を用いたり、測定器を用いたり、個人の経験による採点方法であったりと様々ですが、私はこのブログでは数量評価による表現をあまりしていません。 それは解像度や色の評価など、眼の色の恒常性や体調や基質に左右されやすい項目について定量的な数値で言い切れるほどの経験や再現性に確たる自信と根拠がないからです。 また、双眼鏡に限らず光学デバイスのサイトによる評価ランキングや数字は、情報が切り取られて一人歩きするという怖さがあります。その数字が出た背景、手法の限界や意図、そのあたりが十分読み取られ無いためで、昨今のデジタルカメラやレンズの得点結果が感性と必ずしも合致しないところで議論されているのと同じことかと思います。
JISやISOで規定されている望遠鏡・双眼鏡の評価方法や、MTF測定はたまたZygo干渉計を利用する考えもあると思いますが、これらは製造・品質管理の目的を第一として策定されており、特に前者は必ずしも実用での描写に適合する訳ではないというのが私の理解です。
双眼鏡の光学性能だけでなく描写という意味で、MTFやレーザー干渉計測定に興味はあるのですが、個人レベルでは実行が難しいのが現実で
す。 以前読んだ本に「双眼鏡やカメラレンズに干渉計による光学測定をしても精度が達していないので意味がない」という趣旨の記述を見た記憶があるのですが、そうなのかしら?と腑に落ちない気持ちで今日まできています。
本当の事の発端は、Swarovisionをはじめとする最近の双眼鏡で観察をしている際、遠方の碍子に太陽光が反射する擬似星のデフォーカス像に回折環らしきものが見えた事、そしてその像に色収差や色ごとの球面収差補正状況、はてはボケ像の質の片鱗を見たことが理由です。
観察手法
レーザーを使用したe線(緑)が焦点内外像や干渉計で一般的に使われますが、実視の状況を模した白色光での色収差や色ごとの球面収差を知りたいという理由、そして機材のコストの点から、色可変が可能なLED光源 Aputure Accent B7cを使用しました。
システムは図のように、エドモンド・オプティクス社の20マイクロメーターピンホールを無限遠焦点位置に設置、エクステンダーを組み込んだ102/880mmのアポクロマート屈折望遠鏡(Tele vue 102 SD)でコリメータの代用としています。 被験双眼鏡をFujifilmのAPS-Cデジタルカメラ X-H1(XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR ,250-300mm間で撮影)にて撮影しています。各デバイスは水準器で毎回位置決めをしました。内外像のフォーカス位置は望遠鏡のようにドローチューブ位置を測れないため、カメラの一定画角内にデフォーカス像を揃えています。
LED 光源は白色を6500Kに設定、RGB各色を含めた分光分布をSEKONICスペクトロメーターC700で予め検証してあります。
屈折光学系と撮影レンズ自体の収差は単独で観察し大きく影響しないと判断しました。
本来であれば、ピンホール+レーザー光源をビームスプリッターで被験レンズに投影し、平面鏡でスプリッターへ返すのがセオリーかと思いますが、双眼鏡だと接眼レンズを外さないといけないこと、白色レーザー光源やその他デバイスコストの課題で現状は断念しました。
注意点
・当方、理系工学部出身ですが光学技術を生業としておらず専門外です。
・デザインエラー、観察上のテクニカルエラーがあるかもしれません。というか、必ずあると思います。 遠慮なくご指摘・教えてください。
・焦点内外像による「光軸」良否の判断は「視軸調整が優先」されることから意味をなさないと考えます
・左右鏡筒の差や、個体差はメーカーや価格帯でかなり違っています。特にダハ稜線仕上げなど。掲載画像は左右のうち良好な物を掲載。
・目視による焦点内外像は眼の基質に大きく影響され、乱視が少しでもある場合は正確な判断ができません。
・焦点内外像は合成倍率約100-150倍相当になります。また、白色光はLED光源の分光特性により青色が強調されることにより、青ハロ・紫ハロが実際の使用環境下より強調されています。
まず、今回はZeiss Dialyt 8x56 P*T*と、賞月観星 Pleasing HR 6.5x32です。
Zeiss Dialyt 8x56
以前から8x56だけでなく、Dialyt 6x42, 7x42に共通した「金属部分や、水面に反射する光」の独自な描写の理由が気になっていました。
遠方の木々の葉に光る太陽光を見比べた際、輝度の高い光る部分でのフォーカス収束傾向に他機種と違いがあり、DialytではまるでLED光源で自ら光っているように見えていました。
まず、ダハ稜線の影が強く影響しており、焦点像でも180度2箇所のスパイクとして光条を発生させています。結果として焦点面の結像は散って甘くみえてしまいます。球面収差は全体とし強い補正不足傾向と思われ外像で中央に光束が集中しています。
内像はGの回折環と均質性が素晴らしいです。これには驚きました。他にも双眼鏡10機種以上見ていますが、ここまで天体望遠鏡の長焦点屈折並みの像はひとつもありません。 そのかわりB像は焦点内外とも写っている以上に大きく外側にハロ状に広く分散しており、焦点でも他の色と焦点位置がずれている上に、収束せず広範囲にハロとして散っています。 ただし、B、Gの内像で見られる中心の強い光が焦点面でもかなり狭いスポットで堅く集中しており、前述の焦点像が散っている中に共存しています。これは現行他機種と比べても見られない特徴です。
この一部の波長の一部の光束の収束にDialytの描写の一端があるのではないでしょうか。
賞月観星 Pleasing HR 6.5x32
品質としてはDialytに一段劣りダハ プリズム稜線の影も相当強くみられます。しかし、全体として前述のDialytの収差傾向に似て、実視においても既視感があるのはこれが理由かと納得しました。 思わずこれを見た時に笑顔になってしまいました。
これからの方向性
アップデートしていきながら、言語だけでない双眼鏡・スコープの描写理解を表現できれば良いかと思っています。
もし、読者の方でボランティアいただける有志の方がいらっしゃいましたら、検体例を増やしていく事も考えております。よろしくお願いします。
謝辞
先人・賢人としてWebで常に参考にするのは 以下の方々です。
ほんとうに有り難うございます。
あぷらなーと さん
http://astro-foren.com Wolfgang Rohrさん
ツァイス 望遠鏡の展示室 Takashi Suzuki さん