既にNL Pure 10x42を所有し、いくつかの短所(グレア、ブラックアウト)を認めつつも不満なく往なす術を習得したところでした。そして、得られる視界体験の後には、毎回の感嘆と10倍の選択で正しかった自分を褒めてあげたいという自己愛撫的なルーチンで終えるのが常となっています。
その一方で3cm 8倍機への理由なき探訪は続いており、重量を含めた携行性以外に3cmに何を求めているのか自分を見失っている状態です。 Zeiss SF 8x32にかなり気持ちが振れるそんな折、NL Pure 32mmの突然の登場です。
1週間程お借りした中で、晴天の肥後細川庭園、神田川散策、光害下の星空などで使用しました。
見え方の特徴は、42mm機とテイストや基本性能含め路線は同じです。
倍率差はありますが、42mmと比べ日中においては像質や解像感に差は殆ど感じません。
さらに注意深く見ると、10x42に比べ周辺の倍率色収差がさらに少なく視野周辺までよりフラットで、全体として自然にサラリと見えてしまいます。
この自然さの理由には、アイピースにおける見かけ視界の差がまずあります。カタログ数値以上に体感で差があり、10x42に比べ8x32はそれ程広大さを感じません。また鑑賞に耐える範囲内で時に分析機器的な見え方という側面があるNL Pureには、10倍以上のより詳細を見つめ拡大するダイナミズムが合います。8倍というそこから一歩引く距離感がもうひとつの理由かもしれません。
NL Pureと最新ELの色描写は、特に新緑の晴天下において他機種との違いが強く現れます。
よく言われるモニターやデジタルカメラの色域再現外の色です。初夏の強い光源下、若葉の輝くなんとも表現し難い透き通ったような薄い青緑、単色では表現できない紫陽花の紫などがとても強調されつつも複雑に描写され印象的です。
この瑞々しく溌剌とした色と物体の前後に適度な深度でボケ空間が広がります。風で木々の枝葉が揺れ、一枚一枚の葉に反射する光が揺曳・明滅する空間描写は、まさに双眼鏡は動画デバイスでもあることを思い出させてくれます。
NL Pure 8x32の解像感と良像範囲の広さ、透明感、色再現の忠実性、ボケも含めた空間描写の独自性。もうこれ1台で良いのではないか?と錯覚しかける程です。
天候に恵まれず、星空用途では雲の隙間からプレセペ星団を見た程度ですが、黒く締まった背景からかなり星粒がタイトに浮きあがるこの傾向はNL Pure 42と同じテイストでした。 4cm以上に比べ光量低下による暗さの印象、星数への影響は確かにありますが、この、ベルベットにガラスの超微粒子が光るような見えかたはとても印象的です。 CL Bright 8x30でも感じた、星空を流すなら良質な3cmでも良いかな?という感想です。
その他いくつか気付いた点にふれておきます。
アイピース瞳の球面収差
NL Pure に限らず最近の広角アイピース の全般の傾向ですが、アイポイントから僅かに上下に平行に眼をずらすと、周辺像の減光と色調の変化が強く見られます。 何か観察に支障をきたす訳ではありません。
クレセントグレア
グレアは画像のようにやはりプリズムの側面が光ってしまうのが原因で、これは42mmと同様です。
プリズム側面へかなり浅い角度で入る斜の光線に強く光り、問題にならないSLCやELでは光って見える角度と輝度に違いがあります。 プリズム側面の反射防止塗料や技術はどうも奥が深そうで、単に一番黒い塗料を塗れば良いわけではなく、硝材の屈折率、砂摺りの粒度、塗料の選択(光線入射角度依存の反射率)それ外にも塗料の溶剤耐性、取り扱い、RoHS指令など安全性・環境対応などの制約とマッチングを考慮しなければいけないようです。
広角化の影響でアイピースの視野環で光る部分を観察する眼から隠す事ができなくなりつつあり、今後の新たな課題かと思います。
重量バランス・鏡胴のくびれデザインとホールド性
画像は42mm機ですが、NL Pureのホールド性の良さは、プリズムハウス部分の鏡胴を大胆に絞った形状にあります。
32mmはほぼ同じデザインですが、42mmと違い重量バランスがアイピース側にかなり偏っています。
ホールドする際にAの画像のように「親指でつまみ持ち」をついついしたくなってしまうデザインなのですが。
・双眼鏡の重量が親指にかかってしまう
・親指に支点を取るとアイピース側へ重量が強く傾く
・つまみ持ちを左右からすると、自然と両腕の肘が左右に開く「ハの字(脇が開く)」不安定なホールドになるという結果になります。
Bの画像のように掌の手根部に近くへ双眼鏡の窪み(ディンプル)を近づけることで、脇が締まり、保持する重量が指ではなく腕に分散されます。
42mmでは対物レンズ側がヘビーなので幸いABどの持ち方でもバランスの違和感は感じませんでしたが、32mmは顕著に現れます。 ホールドの作法が必要ということです。
ZeissのSF 32,42は、初めからアイピース側にレンズユニットを片寄せて重量バランスを振ったデザインとされています。また、指のレストにあたる窪みは持たせていません。実際に持った際のバランスの不均一や違和感を全く持ちません。この点はZeiss SFの方がこなれていると思います。
価格の課題
悩みます。
最高レベルの3cm機ですが、価格も最高です。 2割弱安いSFに気持ちが揺れている時がまだあります。
カラーリングにオレンジがあるというのがNL Pure 32の隠れた魅力でもあり、SFにもしもオレンジが発売されたなら、これは本当に危険です。
特に今回は超まとめも、結論も書きませんが、3cmの放浪旅の終点はひとまずこのあたりかもしれません。
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