1929年発売初期のノンコーティングであるが、その後のコート有り普及品にくらべて重量が重く金属塊感あふれるつくりをしている。
接眼見口の樹脂は、なんとエボナイト(加硫ゴム)製で、万年筆愛好家によく知られる独特の臭気となめらかな手触り・鈍い艶を放つ。本体はアルミ鋳物だが、すが入っていたりとZeiss Jenaといえども戦前技術の限界を若干感じる。
ブラックペイントは上質で真鍮部品に丁寧に塗ってある。 中心軸以外に接眼部にも摺動部があるため、グリス固着や蒸散による内部プリズム曇りなど起きやすい構造。メンテナンスを行う際に、手を入れる箇所が非常に多いため修理屋泣かせである。
内部のレーマンプリズムの固定はハウジングに厳密な定位置ガイドが存在せず、計測器がないとバラした後に正しい光軸位置に戻せない構造。また、対物レンズのの偏心構造を回転させても光軸調整が可能なためトータルで視軸を合わすのが非常に苦労する。
ノンコートだが、逆光や接眼からの強い逆入光がなければ視界は比較的クリアである。
特殊硝子やコーティング非使用ゆえに、視界はほんのわずかにグレーがかって現代機種に比べると暗い。カラーバランスが驚異的に肉眼視と同じという意味でフラットに見え、穏やかなコントラストとあいまってとても自然な見え方をする。ニュートラルな発色と穏やかなコントラストなのに、物体の艶と階調豊かなリアリティを感じられるという、現代の双眼鏡にありがちな高コントラストで発色は強いのだが物体がなぜか扁平に見えるという傾向の真逆を行っている。戦前のVoigtlander ノンコートヘリアーやKodak ベス単で写真を撮った経験がある方には想像しやすいと思う。カラーバランスがニュートラルだと信じていたGT-M518やスワロビジョンと見比べても、最新機種には実はまだ若干の演色性があることを理解できる。
光学性能は中心の結像が比較的高く、中心から半径20-30%をすぎて急激に崩れる。非点収差が特に強い。色収差は中心は良好にコントロールされ、月エッジの色収差などもアイポイントを正しく中心にそえてみればあまり目立たない。
星像は中心でも若干肥大し、この個体は左右で結像性能(前後フォーカスでのボケ像がかなり非対象)に差があった。しかし、星空散策においては意外にも視野のコントラストがよく綺麗に見える。近接数十cmから無限遠までほどほど安定した描写性能。 物としての作りの良さや、片手に収まる愛らしい小ささ、そして現代視点で見ても項目にばらつきはあるがちょっと驚く光学性能。製造年代ごとのコレクションをしたくなる理由がよくわかる。
後年、ガリレオ式のダイアデムというオペラグラスも発売されているが、いずれも工芸品としての完成度が高くコレクションとしてもお勧めである。