ジャングルさんの双眼鏡・単眼鏡レビュー Binoculars and Monocular Review

素晴らしい銘機から普通機まで、双眼鏡・単眼鏡についてその覚書

Zeiss Dialyt 6x42 B Skipper 双眼鏡界のレアモン

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Zeiss Dialyt 6x42 B Skipper

 

Carl Zeiss ClassiC ( Dialyt ) 7x42B/GAの派生モデル、または同じSkipperの名前でマリン用途であるグレーラバー7x50の兄弟機として語られる事が多い。
実際に7x42と対物レンズ、プリズム、鏡胴など共通部分が非常に多い。

 

生産台数が少ないという希少性もあり、ある意味神格化されている機種。

ブリッジの中心軸ライン無し(前期)と画像のラインあり(後期)に分かれ、それぞれシリアル番号帯が違う。後期のシリアル帯は460xxx-461xxxを今まで確認している。

今回、長年ある仮説をようやく本6x42Bを入手し、分解検討が可能となったため
インプレッションではなくその点について書き留める。
最終的には8x56B/GA T*にもっと評価があってしかるべきではないか?という誘導にもなりそうだが。

 

いきなり核心だが、左が8x56 右が6x42の接眼レンズ。

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左8x56 右6x42 接眼部 レンズ径が違う



アイレンズ周囲の押さえリング形状が違うので、レンズサイズが違うように見えるが
実際には内部は同じレンズ径。コーティングも曲率も非常に似ている。

7x42 ClassiCの頁でも書いたが、7x42は見かけ視界60度超を実現するため非常に分厚い視野レンズを持っており、その視野レンズの硝材と厚みのせいか視野にわずかな黄緑の着色をもたらしている。


一方、8x56は2群3枚の逆ケルナー(ケーニッヒ)タイプである事が知られていて、レンズ枚数が少ない事もあり非常に透過の高い透き通った見え方をする。

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8x56 ClassiC(Dialyt) アイピース図 Allbinos.comより

 

6x42B発売当時に公式にアナウンスされていたり、資料で既に明らかにされていたことかもしれないが、今回判明したことは、6x42Bの接眼レンズと8x56のものは同じ光学デザインである可能性が非常に高いということである。


6x42B接眼ユニットの外装デザインが、7x42と8x56の関係のように共用・互換が可能ではないので(僅かなピント位置の違いのみで両者のアイピースユニットは装着も使用も可)8x56のレンズを仮組で6x42Bの本体に装着した。

その結果は、倍率も見え方もピント位置もほぼ6x42Bと同等であった。
収まっている接眼レンズ筒などのデザインは違うが、レンズ自体は焦点距離から何から同一であると思われる。

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最外面のレンズ径がなぜ6x42の方が小さいのか?について分解調査をしてみると、画像のとおり、6x42の防水防塵性能を確保するために、厚みのあるガスケットを入れるスペースを確保する目的で、わざわざ第一面のレンズコバを「削り込んで」いた。
その削り込んだ外周にガスケットを入れ、押さえ環の開口直径をその分小さくした部品を使用していた。当然削り込む前のレンズ直径などは8x56と同一である。
Zeissの執念というか凄さを感じる小発見。

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さて、見え方について少々。

 

両者は実視の見え方もかなり似ている。
画像の色彩や艶からくる感触が、私にはいつもヤシカ/CONTAXのZeiss Planar系の描写を思い起こさせる。完全に刷り込み現象であるが、脳の回路がそうなってしまっているからには仕方ない。ヨーロッパ油彩調のこってりした色合いに、中庸なマイクロコントラストで像のエッジが強調して立たない分、物体の質感と丸みを感じる立体感の描出、そして一種のまろやかさが感じられる。このあたりは7x42ClassiCと同系列。

見かけ視界は同一で、中央から視野の半径40-50%まで良像。視野外に向かってなだらかに崩れるが酷くない。軸上色収差は気にならない程度で、周辺にかけての倍率収差は7x42ほどではないがやはり若干目立つ。

遠景をじっくり見比べると視野全体の明るさの印象は変わらないが、6x42Bの方が僅かに青味が強く、色彩のコントラストが少し強いように感じる。
光に対する煌めく反応をする描写の特徴は変わらず持ち合わせているが、両機を比べて遠景においては6x42Bでなくてはならないという大きな優位性は正直、低倍率であること以外あまり感じない。

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上段が6x42B 下段が8x56 いずれもWest Germany製でT*P

 

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6x42Bの白眉は、近接域でのボケを含む空間の独自な世界観と、そこに描出されるブリリアントで生き物の息吹を感じる健康的な色彩と質感描写にある。 IF式で近接域にピントを送る事がかなり面倒ではあるが、8x56が実質5-6m未満には寄れない事を考れば、大きなアドバンテージである。 しかし、6x42BのIF式の面倒さと入手の困難さを天秤にかけると、5m以上の観察対象でSkipperの描写を「ほぼ」楽しめる8x56がもっと注目されても良いのではないかとも思う。

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