ジャングルさんの双眼鏡・単眼鏡レビュー Binoculars and Monocular Review

素晴らしい銘機から普通機まで、双眼鏡・単眼鏡についてその覚書

本物のプロ機 装備品 Fujinon Stabiscope S1640

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以前レビューしたFujinon TS-X1440は民生用の防振双眼鏡でありながら電子ジャイロの信号を元にプリズムをダイレクトに駆動させ広い補正角度±6度を実現しています。

実際のブレ補正能力も大きな揺れに対して強力で、手ブレというよりはもはや自分が立っている足場そのものの揺れすら補正できそうなものでした。

 

今回、自分も含めた一般民間人が購入検討または購入する機会がまず皆無であろう業務用途の防振双眼鏡Stabisope S1640を幸運にもお借りする機会がありましたのでレビューに加えたいと思います。

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通常、当blogでは製品の一般仕様やカタログ記載の情報を細かく書くことはしていません。

今回はネット上に情報が少ない機種ですので記載します。

 

倍率 16

対物レンズ有効径(mm)40

実視界(°)3.4

見掛視界(°)50.8

1000mにおける視界(m)59

射出瞳径(mm)2.5

アイレリーフ(mm)12

最短合焦距離(m)51.2

長さ(mm)200

幅(mm)(拡張時)200

高さ(mm)90

重さ(g)(電池含まず)1,800

フォーカス方式 IF

防水性能 (m)-(分)2m-5min

バッテリーCR123A×2 または AA4

使用温度範囲 -20℃ - +50℃

付属品 : ネックストラップ、ハンドバンド、DCレギュレーター、入力コード(DCレギュレーター用)、出力コード(DCレギュレーター用)、単3電池 4本

アクセサリー:偏光フィルター、オレンジフィルター

 

防水性能・温度範囲、そして最短合焦距離が非常に長いことなどから、一般用途はおよそ寄せ付けず、陸海上や航空における警護・警備・監視に特化されています。実物を見ても長方形の特異な形状、そして裏表どちらでも使用可能なリバーシブル設計(ハンドストラップを左右どちらの手持ちでも使用可)に目が行きます。重厚で堅牢さがあり、手荒に扱われてもまず故障しなさそうにさえみえます。

電源も各種に対応し、偏光フィルター、Oフィルターまで付属する完全業務用然とした揃えです。

 

 

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左が電源投入スィッチ、右が手振れ補正ON(内部プリズムフレームのロック解除レバー)

 

早速使用してみます

電源を投入すると内部から回転体が高速に回転しはじめたような音が聞こえ、大きな音量を伴い急速に音程ピッチが上昇します。

 

これはジャイロに使われているフライホイールという円盤状の金属が双眼鏡内で回転しているためです。

初回使用した時には、メカ男子的に気分が高揚する・・・訳も無く、それ以前にかなり引きました。

ジャイロの構成を初め知らずに使用したのですが、この音を聞いて「まさか本物の巨大物理ジャイロが回ってる・・・??」

 

10-15秒程度の安定化時間を必要とし、双眼鏡内部を見ながら電源投入しますと回転音ピッチ上昇に合わせて視野内の像も安定化されます。

電源をオフにした後も、暫くの間フライホイールが回転し続けます。電源再投入後のアイドル時間を短縮する目的と思われます。

 

 

光学性能や実視での感想について

TS-X1440との比較を楽しみにしていました。用途が違うとはいえ、価格的に数倍もする業務機ですので光学性能的にも違いがあるのではないかという期待がありました。

結論から言いますと両者は全く別のベクトルを向いており、光学性能、特に審美的な美しさを追求する光学性能を比較するものではそもそも無いということです。

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ピンホール焦点内外像および焦点像

焦点内外像、焦点像を見ても光学性能的にはTS-X1440よりも劣ります。

画像はStabi をオフにしていますが、オンにしますとより不鮮明となります。

色収差の補正状況および焦点面での点像収束いずれも並の双眼鏡レベルです。

美的感覚で楽しむ双眼鏡としてみた場合、プリズム内面反射の対策にもかかわらず、接眼レンズを含めた他のコーティングや反射対策が行き届いておらず、結果、日中野外では視野全体がコントラストの低く少々眠い画となります。

視野の色被りもあり、アイピースの設計的にも特筆する部分はありません。

森林公園内に持ち出して観察に使用しましたが、IF式故の不便さ、美的主観での光学性能の低さで全くもって用途に合っていないことを痛感しました。

夜間の星空にも使用しましたが、こちらもTS-X1440の方が圧倒的に楽しめます。

解像力向上に貢献する細かい振動へのスタビライザーの効果も限定的で、制御がかかることで内外像からも分かるように防振制御で限界的な解像力は却って低下します。この点はTS-X1440の方が良好でした。

一点だけ補足をしますと、この機種が本来使用される海上用途では、視野一面どこも一様に輝度が高い状態が普通ですので、ここで私が気にしているいつもの内面反射・グレア・低いコントラストというものはその状況において相対的に目立たなくなります。その点では、私のインプレッションは用途違いの的外れな見解なのかもしれません。

 

その他

TS-X1440と比較し、プリズム に小型の物を使用しています。その代わりに?プリズムコバの内面反射対策を行い、かつ、より堅牢性と耐久性を向上する目的でスタビライザーユニットのプリズムフレーム自体がより大型に設計されているます。

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強固なプリズム保持フレームが内部で駆動します

TS-X1440よりも仕様上の補正角度範囲はスペック上1度小さくなっていますが、実際にはより大きな揺れへの追従性や動作の安定性がS1640の方が高くなっています。 海洋、軍事向けとして極限的な使用や継続した使用に対する堅牢性を最優先とした結果だと思われます。

極端な話ですが、S1640では軽いステップで踊りながらでも視野内を安定させブレを吸収補正できる驚異的なレベルです。TS-X1440は軽い歩行程度は吸収できますが、踊るのは流石に無理です。

 

まとめ

この双眼鏡が使用されている動画を見ましたが、海上保安庁での海事における使用でした。

荒波で揺れ動く船舶からの監視・観察です。

業務用途として振り切った設計と高額な販売価格はやはりメーカーの推奨する用途である軍事、海難、監視向けであり、厳しい環境下で任務を完遂する為の真の道具(装備品)なのでした。