ジャングルさんの双眼鏡・単眼鏡レビュー Binoculars and Monocular Review

素晴らしい銘機から普通機まで、双眼鏡・単眼鏡についてその覚書

Jungle's Classic Two, Semi Old Swarovski

続きまして蔵出しのレビューでございます。

Swarovski SLC 8x30 MKII,  初代EL 8.5x42 と EL8x32です。

初代ELシリーズ(Swarovision前の1999から2000年代の世代)を当時の私は金銭的に無理をおして購入し、もうこれで「買い換えること=散財すること」も無いだろうと当時は安堵していました。しかし甘かったです。魔窟へのほんの入り口でした。

 

SWAROVSKI SLC 8x30 MKII

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初期型との区別は鳥マーク側ラバーの段のついたカーブが緩いか急かである。写真は後期型。
光学系もリニューアルされていると噂されるが、内面処理が良くなった程度かな?位にしか感じない。僅かな欠点もあるが、非常に個性の強い双眼鏡だと思う。

像の平坦性に比較的優れ、60度近い見掛視界の周辺まで良好である。(星像では中心から70%付近から緩やかに崩れる)Zeiss 8 x 30 classic , Leica Trinovid 8 x 32 BNが競合になるが、SLCは絵画調の色彩感とコントラストでZeissよりも特徴的。Trinovidは3機種の中で像面湾曲が一番強く出るが、中心像の鋭さは一番、視界の僅かな黄色味は許容範囲内といった感じ。

つい最近発売されたEL 8 x 32 WB (EL 42mmのダウンサイジング版)と最後まで悩んだ機種である。価格差は約2倍! 機構的な部分、デザイン、最短距離等、ELの方が上回っている。 視界のカラーバランスはELの方がニュートラルでSLCは赤黄色に僅かな偏りがある。 ELは8.5 x 42機にも見られた特徴である深度の浅さがあり、立体感が強調される。

しかし見比べを暫くしていると、SLCの深度の深さとコントラストのある絵画調の色彩が、他には無い特徴に思えてきた。結果的にはコストを考えてSLCになったが、無限財力であったなら・・・もっと悩んだと思う。

作り的には充分な強度。 全長が比較的長いが、重量が600gと軽量なので長時間の使用や取り回しもすこぶる良い。内面処理は徹底されているが、プリズムの一部が光り易いので斜光線によるコントラスト低下には注意を要する。

(訂正: 後日調査により、確かに接眼部から覗くと出射瞳の外にプリズム壁の光が見えるが、この部分が原因ではなく対物側の至近内壁の一部と遮光環エッジ等が光る事が分かった。遮光環がナイフエッジ状で無いのが残念・・ 対してELは遮光環がエッジ状になっており、強光源に対しての視野外周にリング状に出るフレアはSLCよりは低減されている。
しかしSAWROVSKIのSLC,ELともにこの特徴的なフレアは出るというのが最近分かった。他社機種は違う出方をする・・)

ちなみに、対物最前面の1枚は保護フィルターである。個人的には平行平面ガラスを光学系に入れて欲しくないのだがこの場合、気密性もここで保っているので外す訳にもいかない。

星見用としては、4cmクラスとその差を歴然と感じ見える星数は限られてくる。 しかし、星の煌きと色彩を結構堪能できるのでそれはそれで楽しい。

 

 

SWAROVSKI EL 8.5x42

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高次元でバランスの取れている・・・と何処でも絶賛される、そのとおりの出来。しかし、定価改定後の価格は凄まじいの一言につきる。他に買える物あるでしょうと思わないでもない。

定評のあるSLCシリーズから一歩進んで、デザインや機構的にも洗練された部分が多い。構造的な堅牢さはLeica Trinovidの方が上と思われ、遊び的な要素を残す雰囲気がある。

画調はZeiss程どぎつくなく、しっとりとした質感描写で Leicaよりもビビッドな色彩を提供する。どういった画調が好きかで好みが分かれる。 ちなみに友人はコントラスト強調のZeiss Classicを選び、私はスワロフスキーだった。
SLCに比較するとカラーバランスがニュートラルに近くなったが、国産のともすると「白っぽい」印象とは全く違う。口径42mmの光量としては若干暗めに思える。透過率が際立って良い訳ではない様子だ。

見かけの深度が思ったより浅いので、かなり寄れる最短距離から中距離では「美しいボケ味と立体感」を楽しめる稀少な双眼鏡と言える。8.5倍という倍率は、数字上は7倍と10倍の中間的で良いところ取りに思えるが、実際の使用感では10倍に限りなく近い。

マグネシウムダイキャスト採用であるが890gと重量は標準的。 内面処理等は適当であるので、SLCシリーズよりは逆光に強い。

 

 

SWAROVSKI EL 8x32

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スワロフスキー EL 8倍 32mm

SLCから1年、一度は納得して買ったもののSLCの些細な欠点が気になるなる・・。結局買ってしまった。初めからこちらにしておけば良かった。納得の1台である。

操作性は兄貴分である42mmと比べ更に鏡胴部分がスリムで、重量も500g強と軽量なため非常に良い。SLC30であった対物付近の内面反射もかなり低減され、通常の使用ではまず気にならない。EL42mmに比べ像面の平坦性が良くなっており、透過率もかなり改善されているようだ。Leica Trinovid 42mm BAと5等星が見える星空で比較したが、星の見える量では印象的に変わらず、輝星の明るさ自体はELの方が良かった。星雲等の面積体は口径差が勝つのだが。

目下お気に入り双眼鏡の筆頭である。
近所の公園の野鳥観察に良く使っている。 鷺や鴨たちであるが、まず、色の描写がとにかく鮮明で羽毛の1本1本が艶やかにくっきりと描かれ生き物達のその立体感が非常に迫ってくるように感じられる。 白い物のエッジのアウトフォーカス気味に、僅かに黄色の色収差が目に付くがそれ程気にはならない。 双六で言う「アガリ」に結構近い双眼鏡ではないかと思う。

 

 

この頃は記録をしっかりつけていなかったため、何をどの順番で、どの仕様の機種を所有していたのか少々あいまいです。ただ、初代EL8.5x42はSwarobright(プリズム面のミラー増反射技術)表記がないタイプで、その後SLCの代わりに購入したEL32はSwarobright表記有りだった事は間違いありません。 実際にSBありのEL32は星空観察においても初代EL42(non-SB)と明るさの遜色があまり無いというショッキングな結果でした。

技術の進歩はSwarovskiにおいては、現在もNL Pureに引き継がれており「アガリ」の機材というものは決して存在しないというのを嬉しくも痛感します。