ジャングルさんの双眼鏡・単眼鏡レビュー Binoculars and Monocular Review

素晴らしい銘機から普通機まで、双眼鏡・単眼鏡についてその覚書

防振双眼鏡はやはり神? FUJINON TS-X 1440 TECHNOSTABI

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超まとめ

・フジノン長年にわたるプリズム防振技術の最新機 比較的大きな振動の抑制に威力を発揮 微細な振動抑制にはそれほど強くない

・用途のお勧めはメーカーカタログどおり (用途にあったタイプを選ぼうに記載)

・光学性能は不満のない程度の良好さ

・内面反射の多さが自然観察において影響

・重さと最短距離に不満あり

 

 

フジノンをはじめとする防振双眼鏡といえば、ルミさんの広範で博識なレビューが有名です。

www.amazon.co.jp

とても氏には敵いませんが、私なりに最新のTS-X1440について書いてみます。

 

特許をみても富士写真光機名義でのジャイロによる電子制御の防振双眼鏡アイデアは70年代から(もっと古い?)見られシュミットぺシャン式のダハプリズムを左右で連結、3軸で動かし、目幅調整プリズムで光束をアイピースに導くという方式です。

前機種テクノスタビ TS1440や、OEM機種もこの基本は変わらず踏襲されていると思われます。 2019年に発表されたTS-X1440もデザインや操作性の改善がリニューアルの主なポイントとあります。

機械式を除く電子制御式では、バリアングルプリズムまたは対物レンズ系の一部を動かす方式が他にありますが、制御可能な角度やブレへの追従性、光学性能部分に特徴がそれぞれ出ます。

他社機種とTS-Xとの違いはまさにブレ補正方式の差から始まっているかとも思われます。

 

早速ですがフジフイルムのカタログよりこの機種のお勧め用途の記載を抜粋します

「カタログ 用途にあったタイプを選ぼう」 より

 

旅行・ハイキング、コンサート・観劇・スポーツ  記載なし

バードウォッチング 記載なし

マリンレジャー、サファリ観光  

星空・自然観察 

プロフェッショナル(観測・監視)

 

という訳で、なぜか双眼鏡で一番使用頻度がありそうな用途にお勧めの記載がありません。

私見では、メーカーのお勧めでなくてもこの機種の特徴を知っていれば十分楽しめるというのが結論ですが、それについては詳細を見ていきましょう。

 

外観外装

一新された外装デザインが特徴です。手触りに湿度感覚があるラバー外装に高級感を感じます。反面、実用ではラバー部分へのホコリの付着が目立ちやすいです。

対物レンズ側にかけてボリューム感のあるラウンド構造が素晴らしく、対物側には48mmフィルターネジ が切ってあり天体でのネビュラーフィルター等、各種アクセサリーへの対応を可能としています。

厚みと体積および重量がある鏡胴ですが、ホールド感は極めて良く取り回しも良好です。バッグに収納する際に大きさを実感します。

眼幅調整やフォーカスノブ操作はしっかりとした造作による安定した動きです。

 

防振機能

電源ボタンおよび防振作動ボタンが分けてある意味が当初からよくわかりませんでした。何らかの電源投入後のアイドル時間が必要なのかといえばそうでも無いようです。

ボタンが比較的小さく両ボタンが近接しているため、暗闇では当初よく間違えました。おそらく手袋を装着した操作ではもっと認識しづらいはずです。 

この個体だけの特徴(不良?)かもしれませんが、防振ON後に数秒間視野内が微妙に視野全体が僅かに色ズレした状態が継続されることがあります。その後、観察するとこの状態は必ず5秒間かけて収束する挙動を示し、プリズム自体の振動が収束しているのかはたまたプリズム光路の端から少しずつ中央に戻しているのか、メカニズムが未だよくわかっていません。

防振ボタンON前のジャイロのポジション位置に関係しているのかとも思いましたが、それとも無関係のようです。 5秒後に一旦収束するとその後は何も変化がありません。

また、極めて稀ですが仰角のある星を見る際に一二回プリズムが上下に誤作動する挙動がありました。

電池は充電池も使用可能で、実際の使用においても1-2日の遠征では十分バッテリーが持ちました。

 

防振自体のブレ収束は作動後はかなり早いです。また作動ボタンを一度押すと、長い時間継続するのがとても便利で、ボタンを押さえ続けたり何度も押すような必要性もありません。 

気になる点と言えば、静寂なコンサートで防振ON-OFFをするとプリズムの作動・解除の音がまるで昔のフィルムカメラのモーターによるフィルム巻き上げチャージ音に似た大きな音が発生し、すくなくとも隣の座席の人には聞こえる音の大きさが出ます。その用途では防振はONに入れたままをお勧めします。

観劇などで双眼鏡をパンする際の防振追従は、ステージ上を追うのにも十分かつとてもスムースな制動をします。 カメラのボディISやレンズISで動画を撮影する時に起こりがちなIS範囲外で急に衝撃とともにガクッとリセットしたり妙な揺り戻しが起こる事が一切なく、流れるようなスムースな制御です。強いて言えば、パンで流して止めた際にその後止まらず少し流れすぎるきらいがあります。プリズム制御角度の余裕が感じられる瞬間です。

このプリズム制御式防振の白眉は、ブレ防止角度+-6度という他社品と比べても極めて広範な補正範囲にあります。この数字の意味するところは振動幅の大きい揺れへの対応力を示し、屋外でこの防振双眼鏡で見ながら歩行しても、視野内の安定性を保つほどの高性能さです(決して真似しないでください。危険です) 反面、細かな微震を抑える事には苦手というよりは興味が薄いという形容が正しいようで、星を見る際には視野内のある一定範囲内に対象物を収束させるという方針で木星はガリレオ衛星4つがしっかり点として認識しつつ、木星本体と一緒に14倍の視野中心でゆったりと遊んでいる状態です。三脚で固定したような決まりかたはしませんし、バリアングルプリズム式やシフト新方式のCanon 32mm ISとも違う挙動です。

 

見え方

明るい空や、一面の白色などで周辺減光目立ち、ともするとガリレオ式に似た強さで、明暗の境界が明瞭な段としてわかります。通常の使用であまり気にはなりません。 

ダハプリズムは稜線が中央水平に見え、ポロ式ではないことがすぐわかります。鏡筒内部は上部に電子基板が見えたり、あまり積極的に内面反射防止を行なっていないようで、プリズムコバ の黒色塗装部分も少なく、強い斜めからの光に反射し光っており、この影響が後述の内面反射に顕著に現れます。

画像では対物側から赤色レーザーで斜めにプリズム側面1点に照射をすると、散乱して全体が光ってしまっています。 この点はメーカーに問い合わせをしましたが、プリズム防振式構造ゆえの複雑さから内面反射対策に限界があることを認めつつ「可能な範囲で対策を行なっております」との回答でした。また、暗に「接眼レンズ側から見て影響の大きいであろう目幅調整プリズム側処理してます」というニュアンスでもお答えいただきました。

倍率14倍と高い割には色収差は比較的良好にコントロールされていますが、焦点前後にはやはりフリンジが出ます。また、倍率色収差もそれなりにありますがCanonの32mm シフトISより少ない印象です。見かけ視野を欲張っていないためか、周辺にかけての点像の崩れは緩やかで像面湾曲も良好です。

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斜入光に反射するプリズム側面や頂部各所が瞳に近く、影響大




 

観劇での照明(人工照明)

美術館・博物館をはじめ経験的にはわかっていましたが、同じく人工照明の観劇では倍率収差があまり目立たず、例えば白い衣装の輪郭を注視すると気がつきます。衣装や装身具の煌めき、俳優・ダンサーの動き、筋肉、表情、汗やその息遣いまで、分析的過ぎ無い程度に立体感のある美的描写を楽しめます。

この時は、1000名超収容の中規模ホール、20列目後方から(30m未満)の使用ですが、舞台上の大人は全身像が視野に収まりません。子供なら入るのですがもう少し広く見たいと思う時があります。 

反対にもしアリーナ級で後方座席 60-90mからの使用であると考えると、大人の全身が余裕で入るか、もう少し寄りたいと思うかもしれません。前述しましたがブレ補正は、ダンサーの動きに合わせた水平のパンニングにはとてもスムースに追従しますが、止まった際に少し流れすぎる感じはあります。しかし、急にカクッと反動する動作と共に止まる傾向がある他社のスタビライザーよりは自然な動きでとても好ましいです。

1.3Kgの本体重さはスタンディングで首からストラップかけをし、尚且つ持ち続けるのには辛いかもしれません。座席に座り、バッグをお腹に抱えつつその上に両肘を曲げて下から双眼鏡を支え持つ使用法だととかなり長時間楽に使用できました。

 

自然観察

晴天の森林公園・屋外に持ち出しました。 順光下以外では内面反射の多さが大きく影響してきます。

樹木の画像のようにグレアが視野半分以上を覆う状態で、それ以外でも常にごく淡いフレアが視野全体を覆っており、本当に斜めや逆光の影響がない順光下以外は、もうそれはクラシックレンズ描写の趣です。 

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写真家 川内倫子というか、Kodak ポートラフイルムの白昼夢的な世界です(フジなのに・・)

この影響を防ぐために、対物レンズ先のフィルター枠を利用しフードを試してみましたが、完全にプリズム側面からの反射を防ぐためには18cmほどの長さのフード遮光が必要でした。

最低でも10cm程の遮光がないと、通常光での視野コントラスト改善には殆ど寄与しません。

 

フードの効果があることは理解しましたが、長大なフードは見た目にも恥ずかしいため、早々に諦め、このクラカメ風描写も味わいと腹を括りました。

朽ちた樹木や暗がりの狛犬の石像など生気のない対象物は、非常にガッチリした質感描写をします。

ミヤマアゲハを視野に入れた際、そのボケの美しさと何とも言えない描写世界に思わずうっとりしました。 一方で、その高倍率さと最短距離5mという短さに、動く対象物の追従と近距離が見えない事によるフラストレーションがありました。バードウォッチングやネーチャー用途にお勧め印がついていない理由が理解できた気がしますが、それでも手ぶれ補正付き双眼鏡による取り回しの自由度と14倍の威力はメリットがあると思います。

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テレビュー の2インチ延長筒はどちらかを削らないと干渉しました。



天体観望

星座間を流す際、星々が手振れの影響なく点像で綺麗に流れていく景色が圧巻です。

しかし、見かけ視界は60度以上は欲しいというのが正直な感想です。 14倍という高い倍率でどこを今見ているのか、星座の位置感覚が無い状態によく陥ります。

また、光害地ではそもそも倍率のある双眼鏡で見て楽しい対象が意外にも少ないというのが正直なところで、こと座のドーナツ星雲はチャレンジしましたが光害地では難しかったです。

夏の天の川付近ももう少し星座との関係性を感じつつ(広く)楽しみたいと思うことがあり、別の低倍率双眼鏡との併用になります。このあたり、やはり一芸に秀でたWX 10x50IFに手が伸びてしまいます。

 

 

という訳で、メーカーカタログでお勧めする用途が結局はどれも正直に記載されているというのが結論なのですが

ベースの素地が良い機種なので、何とかあらゆる用途に対応できる改良を行なって欲しいと思います。

FUJIFILM Imaging Plaza でレンタルサービスが当該機種を含めて開始(有料)されています。

購入検討の際には是非お試しいただくことをお勧めします。