ジャングルさんの双眼鏡・単眼鏡レビュー Binoculars and Monocular Review

素晴らしい銘機から普通機まで、双眼鏡・単眼鏡についてその覚書

賞月観星プリンス UF 7x32 WP (Part 2)

 

この双眼鏡を自然観察、日中の用途に使う場合や、プリンスUFを購入する際に留意する点に触れる。

 

1) 自然観察での見え方、グレアやフレア耐性について

2) 立体視と近距離の見え方

3) 歪曲収差補正と回転球現象(GE,RB)

4) 格上の双眼鏡との比較

5) 外装ゴムと本体からのケミカル臭い

 

1) 自然観察でのグレアやフレア耐性について

 

画像のような森林公園で太陽が上から差し込む環境が、いつも私がグレアやフレアをテストする状況である。

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レンズやプリズム内での反射迷光自体は、直接光源が入ってもそれほど酷いフレアは出ず、一定下にコントロールされている。却ってアイピースの瞳光束以外に回り込んだノイズに、何らかの拍子で目のアイポイントがズレた際にノイズが見えやすく、これはポロプリズム の一つの欠点であった事を久しぶりに思い出す。

プリズムの内面反射は、丁寧な黒色塗装とプリズムに遮光を目的とした溝を切るなどの努力で抑えられている。しかし、対物レンズ後ろと、プリズム抑え枠などいくつかの部分が強い光でかなり光って、最大は画面の半分を覆うクレセントグレアがでてしまう。

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対物レンズ後もかなり光る。

このクレセントグレアのでる状況はSwarovski NL Pureより少々多く、良質なダハプリズム機に後塵を拝す。 が、他のポロ機よりは断然良い。

 

こういった極端な光線状態以外では、視野内の良好なコントラストと透明感を維持しており、濃い目のカラフルな色彩を楽しむ事ができる。

 

 

2) 立体視と近距離の見え方

3m付近から10mあたりの中近距離では、視差による強い浮き上がりで、立体感が強調される。また、ピントの深度が深く、フォーカスリングのピント追い込みと、眼が合わせに行く動作が混ぜこぜになり、立体像が上手に脳内で腑に落ちない事がある。

長い事ポロ機を触ってないからかもしれないが、強力な立体感覚と引き換えに、長時間の観察では疲れが早く来る。(本機の視軸の平行は無論、ちゃんと合っている)

 

 

3) 歪曲収差補正と回転球現象(GE,RB)

 Part 1でもすでに述べたように、直線歪曲補正がなされている上に、際周辺で像の圧縮があるため、人によっては樽型歪曲があるように知覚されるかもしれない。

ビル群など直線物が多い場所では、水平にパンした際には回転球現象が起きやすい。

 

また、このアイピースの特徴として、瞳の光束アイポイントに対して目を上下左右に動かすと、視野周辺の光量落ちや視野周辺の色調変化が激しい。これは瞳の球面収差の周辺光束の処理に特徴があるからである。 欠点とは一概に言えず、最近の広視界型の新機種ではこの傾向が増えている気がする。

 

 

4) 格上の双眼鏡との比較

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左 NL Pure 10x42 右 Prince UF7x32

iPhone SE2による撮影なので、極小センサー故の諧調幅再現ができずに、実視での違いが十分表現できていないが。

実視の比較において、Prince UFは一見パンチのある色彩と濃さで、色収差も抑えられ解像力も十分でているように見える。しかし、NL Pure では花びらの微妙なトーンとグラデーション、陰影明暗をきちんと描出できており、本当の立体感や物の柔らかさ、硬さを高い次元で表現できている。 

対して、Prince UFはMTFでいう低周波のコントラストを最大化して、見た目のパンチはでているが詳細に見るとトーンジャンプして、極端な表現をすると「綺麗な花々を高彩度でプリントした」写真が前後の空間中に綺麗に並べられているように感じる時がある。

Prince UFの描写は昔のMF Ai Nikkor レンズのような線の太いダイナミックな描写+立体パノラマ感だろうか。

 

好き好きあるとは思うが、これが違いである。

 

5) 外装ゴムと本体からのケミカル臭い

ゴム見口、外装、CF軸などのグリスが新品開封時から私にはかなり強烈に臭う。

特にゴム見口はお湯やアルコールで抽出洗浄を繰り返したが、肌に刺すようなわずかな刺激を常に感じ、気体への拡散がある。ゴム系には様々なケミカルが使用されており、一部のブランドではプラスチライザーをはじめとする添加剤を使わない方向に向いている。ただ、この業界全体に於いてはアレルギーテスト済みなどの情報を出しているメーカーは皆無だ。

私個人はエポキシ樹脂系にだけアレルギーがあり、皮膚に触るゴム系には少し注意している。この問題は日系某メーカーでも「ゴムラバーのブルーミング+異臭」で過去に経験した事があり、その時はゴム納入ベンダーのロットの問題と認め交換対応された。

もし、お子さんやアレルギーがある方が使用する場合は、購入前に何らかの情報を得るなり確認することも一考だと思う。

 

 

さて、

 

この価格で、ポロプリズム特有のダイナミックな描写を持ちつつ、ダハプリズム の高級機の味付けに近づけようとした努力は成功しているように見える。

UFのアイピースの特徴から、 UWAなど他の3cm機とのバリエーションがあるのにも正当な理由がありそうで興味深い。 一層の品質に対する向上も願いつつ、賞月観星製品には今後も目が離せない。 (日系メーカーにも期待!)

 

 

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