ジャングルさんの双眼鏡・単眼鏡レビュー Binoculars and Monocular Review

素晴らしい銘機から普通機まで、双眼鏡・単眼鏡についてその覚書

手持ち双眼鏡の最高峰 Swarovski NL Pure 10x42 (3)

機能面、アクセサリーにおいての注目すべき点です。

まず、専用ストラップが平紐に変更されました。EL SV WBのエレベーター式の細紐は便利ではありましたが、エレベーターダイヤル部が嵩張り、紐が細くて頼りなく感じて結局使わなくなりました。
今回の平紐タイプは、以前のエレベーターダイヤル部の形状は似せたまま、平紐のロック機構へと機能が変更されています。また、市販の通常ストラップを取り付ける金具が標準で装備されています。このアダプターにも改良が加えられ、以前のEL SV WBタイプより金具が回転しにくくキツ目にハマります。よって、平紐が捻れるトラブルが激減しました。

キャリングバッグは、双眼鏡を横向きに、かつFHRを装着したまま収納できるタイプです。
他にスマホ程度は収納できますが、私個人はEL SV最初の50mm用バッグの方が収納力もあり好みです。

NL Pureの外観上特徴的な、鏡胴部分デザイン変更です。
旧SLCから脈々と受け継がれてきた親指レスト部分の窪み(ディンプル)が廃止され、コークビン形状の鏡胴部分全体のくびれ。 旧ディンプルは、いわばスワロ双眼鏡のアイコン、アインデンティティであったと言っても過言ではないと思います。その機能的なアピールとは裏腹に、左右からつまむような持ち方には合うのですが、重量のある機種において、掌の手首側(手根部)で鏡胴の対物側を支えるような持ち方では、窪みの形状(向き)が指に合っていないという課題がありました。  今回のデザインはプリズムハウスに沿って細くギリギリに絞り、かつ左右の手で「つまめる」ような扁平で複雑な形状をしています。細く絞った部分が掴みやすく、結果、どのような持ち方をしても掌への収まりが素晴らしく良いです。

 

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平紐ストラップ用アダプターが標準装備

 そして、ある意味最も注目された?一番の謎アクセサリー、専用石鹸とブラシ。
説明書には外装ラバー向けで、決して光学系には使用しないでくださいとあります。
石鹸およびブラシの両方ともスワロの鳥アイコンが刻印されています。おそらく靴用のサドルソープ的な物だと思います。 たしかにUKやEUから購入する個人の中古双眼鏡は、想像を超える過酷な(雑な)フィールドで使われ、出品前に何もせずそのままで「とっても汚い」「触るのも抵抗がある」状態が散見されますが、そういう背景への答えなんでしょうか。  このアクセサリーを自分が使う日が来るのか?とても興味があります。

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NL Pureにおける一番の謎 専用石鹸とブラシ

 

双眼鏡を、主に水平にパンした(振った)際に知覚される視野の回転球現象(RB,GE)について。
NL Pureでの、遠景、直線物のある建物や林の木立、星、いずれにおいても私はほぼ気になりませんでした。この点はとても快適です。
直線歪曲処理をSF 32mmのように周辺糸巻きにしているのかと思っていましたが、それよりも直線歪曲は真っ直ぐ目に修正され、周辺でごくわずかに糸巻きに落ち込む傾向です。 ELの視野最外周における極端な角倍率低下と変形が抑えられており、それによる効果がかなりあるようです。単なる歪曲+-%がRBの主原因ではなく、視覚的に受け入れやすいカーブに調整することの方が重要なのかもしれません。

色収差は中心から周辺までかなり良好に補正され、ELと比較して、倍率収差の補正が更に良好となりました。最終辺の白い建物エッジに薄いわずかな黄緑フリンジがでる程度です。

周辺像は、中遠景を見る限りでは崩れも少なくフラットに見え、視野の際でもしっかりと結像しています。しかし、星象でチェックをすると風景とは一変し、周辺にかけて像面湾曲が僅かに見られます。特に最周辺では非点格差がありSとMの像面の差がわかりますが、非常に程度は軽微です。 星に対する中心の鋭さはELとほぼ変わらない為、周辺までのピンポイントさを好む場合はELの方が少し良好です。 

 

昼間の観察と違い、FHRによる手ブレ低減は更に限定的になります。細かい星像のブレが、手ブレというより自分の心拍による揺れからも起因してFHRでは解決しないからです。NL Pureの高性能を星で発揮させるにはやはり三脚が欲しくなります。 ここでハタと気がつくのですが、星用途に三脚に固定するのであれば、WX 10x50 IFとの価格差を正当化できないと。ELであれば倍の価格差とハンドヘルド可能という言い訳は依然成り立ちそうです。

(後日、禁を破り、ルミビノさん推しのWX 10x50IFをついに入手しました)

 

WES Winged Eyecup (EL SLC用のツノ付きカップ)を装着することで、左右の遮光性が更に高まります。
公式ページ上ではこのアイカップにNL Pureとの記述がありません。使用上の実害は全くないのですが、僅かにツノ側のゴム厚みで完全にフィットしていないのかもしれません。

屋外のかなり寒い環境では、ツノ付きカップの使用で眼球からの水蒸気による眼レンズ曇りがおきやすい傾向があります。これはスワロのカップ構造がネジこみ構造の先で空気抜きができていない点、それとNL Pureの眼レンズ表面に水蒸気の曇りができると、ELや他のガラス表面に比べて僅かに乾きが遅いことが理由のようです。

EL Swarovisionの特徴でもあった前後のボケ像が素直で、ボケた像に何があるかわかりやすい特徴をNL Pureも引き継いでいます。写真レンズでいうとTessarのような形がわかる若干硬いボケ像です。
この前後のボケ像のある空間描写には、本当にその場に居るような錯覚を起こさせます。ボケ像の質は違いますが、似た体験をさせる双眼鏡は他にはDialyt 42mm 56mm機でしょうか。

フォーカスノブはELに比べてトルクが加わり滑らかになりました。その分、デフォーカスからの合焦がELより遅くなりますが、飛んでくる鳥を追いながらフォーカスする程度は十分可能でした。ELのスカスカ・カリカリとしたノブの感触には好みが分かれたと思われます。

実際のフィールドにおいて、快適に見るための「お作法」がいくつかある事は前述しました。
これらに気をつける事で得られる視界体験は、やはり「ため息がでる程に素晴らしい」の一言です。
野鳥の羽毛や植物の葉ひとつとっても、その質感と細かなディテールの再現力に圧倒されます。物体の丸みと奥行き、その場の空気感・透明感の空間再現力、そして適切な彩度と忠実な色再現。これを大きく超える双眼鏡を作ろうとするには、正立プリズムを無くすような革新的なアイデアが必要かと思われるほどです。
また、大きな特徴として、動きの無い静止した画像の中で、本当に僅かな動きをおこした対象物が目に飛び込んでくる・気が付きやすい傾向があります。 理由はわからないのですが、他の双眼鏡でこういった経験をした事があまりありません。NL Pureはこの点でも自然観察用途としても稀有な特徴を持っています。

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